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福岡地方裁判所 昭和61年(ワ)2224号 判決

原告

ロマネスク野間管理組合

右代表者理事長

徳永正司

右訴訟代理人弁護士

吉野正

被告

有限会社今川屋

右代表者代表取締役

今川政博

被告

諫山證

被告

本多正典こと

本多正則

主文

一  被告有限会社今川屋と被告諫山證との間の別紙物件目録記載の建物に関する別紙表示の賃貸借契約を解除する。

二  被告諫山證及び被告本多正則は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物から退去してこれを引渡せ。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨の判決及び主文第二項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する被告本多正則(以下「被告本多」という。)の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、福岡市南区野間三丁目一三〇番所在マンションロマネスク野間(以下「本件建物」という。)の区分所有者の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保する目的を達成するため区分所有者全員によつて結成された管理組合であり、その代表者であり区分所有者でもある徳永正司は、昭和六一年七月二日、原告の総会における決議により区分所有者全員のため本訴を提起する者とされた。

2  被告有限会社今川屋(以下「被告会社」という。)は、本件建物のうち、別紙物件目録記載の建物専有部分(以下「本件専有部分」という。)の区分所有者である。

3  被告諫山證(以下「被告諫山」という。)は、昭和六〇年五月二〇日、被告会社から本件専有部分を別紙表示のとおり賃借し、被告本多に本件専有部分を使用させて共に占有している。

4  被告諫山及び被告本多の本件専有部分の占有態様と共同生活上の障害の存在

(一) 被告本多は、暴力団二代目山建組中野会舎弟小政組の組長で、被告諫山は、右翼団体員で右小政組若頭梶原孝の知人であるところ、被告本多及び被告諫山は、本件専有部分を右小政組組事務所として使用している。

(二) 被告諫山及び被告本多は、共用部分である本件専有部分の表側を全部壊して、鉄製の頑丈な壁とし、一部を鉄製の扉に勝手に改装した。更に、裏口ドア、窓も全部鉄製の壁と扉にしてしまつた。しかも、右工事は、管理組合に何の連絡もなく勝手にされ、他の共同生活者の利益を著しく阻害した。

(三) 被告諫山及び被告本多らは、玄関側の共用部分にテレビカメラを設置し、通路及び来訪者を監視している。そのため、来訪者はもちろんのこと道路を通行する者まで常に監視され、異様な状態となつている。

(四) 昭和六一年一月二四日午前四時ころ、小政組に反発する暴力団が本件専有部分目がけて発砲する事件も発生した。

(五) 本件専有部分内には、小政組の暴力団員が多数出入りし、表にもたむろし、抗争に備えて待機している。

(六) 本件建物前面の道路には暴力団員使用の外車を違法駐車していることが度々で、付近の者に不安感を与えている。

(七) 深夜の午前一時ないし二時ころ、本件建物全体に響くような大声で人を見送つたり、部屋の中で騒いだり、歩き回る雪駄の音等で他の入居者は夜も眠れない状態である。

(八) 特に被害甚大なのは本件専有部分の隣でパーマ店を経営している訴外森通悦、同森美智子である。本件専有部分が暴力団事務所になつて以来客が急に減り、生活ができない状況に陥つた。

(九) 本件専有部分が前記のとおり暴力団事務所として使用されるようになつてから本件建物の賃借入居者は相次いで出てゆき空室が増加した。

5  管理組合規約によると、本件専有部分は専ら住宅として使用しなければならず、他の用途に供してはならないことになつているのに、暴力団事務所として使用する被告本多らの行為は重大な規約違反でもある。また、被告会社は、それに対して賃貸人として何らの措置もとらず放置したままである。

6  原告管理組合は、これまでに被告本多らに対し、右のような違反行為の改善を求めたが全く改められなかつた。前記のような被告諫山及び被告本多らの行為は、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為であり、区分所有者の共同生活上の障害が著しく、同被告らが本件専有部分から立退く以外他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である。

7  原告管理組合は、掲示場に総会を開催する旨を掲示して被告諫山及び被告本多両名に意見陳述の機会を与えた上、同人らに本訴提起の可否を議題とする総会を昭和六一年七月二日開催する旨通知するとともに弁明の機会を与え、右総会において区分所有者及び議決権の四分の三以上の多数で、本訴を提起することを決議した。

8  よつて、原告は、被告らに対し、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)六〇条に基づき請求の趣旨のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否等

(被告本多)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実は認める。

4(一) 同4の(一)の事実は認める。

(二) 同4の(二)の事実は否認する。本件専有部分の表側の壁が全部ガラス張りであつたため、前面に煉瓦の壁を取り付け、一部に鉄製の扉を取り付けて二重扉とした。裏口の鉄製扉は以前からのものである。右工事は、原告管理組合に連絡しなかつたが、工事中に何の問い合わせもなく、他の入居者からも苦情はなかつた。共同生活者の利益を阻害したとは考えられない。

(三) 同4の(三)の事実中、玄関側の壁にテレビカメラを設置した事実は認め、その余の事実は否認する。右テレビカメラを設置したのは組員の中には刺青を入れた者もおりいちいち玄関に出て応対しなくてもよいようにとの考えからであつて、近隣の者に対する気づかいでもある。

(四) 同4の(四)の事実は認める。

(五) 同4の(五)の事実は認める。本件専有部分に組員が多数出入りしたのは、発砲事件後二、三日程度である。

(六) 同4の(六)の事実は否認する。

(七) 同4の(七)の事実は否認する。

(八) 同4の(八)の事実中、本件専有部分を暴力団事務所として使用したため、森通悦らの経営するパーマ店の客が減り、同人らに迷惑をかけた点は認める。しかし、同人らが生活できない状況に陥つたとの点は否認する。

(九) 同4の(九)の事実は否認する。

5 同5の事実は否認する。

6 同6の事実は否認する。

7 同7の事実は否認する。

(被告会社)

被告会社は、公示送達による適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

(被告諫山)

被告諫山は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

第三 証拠〈省略〉

理由

一〈証拠〉によれば、請求原因1の事実を認めることができる。

二〈証拠〉によれば、請求原因2の事実を認めることができる。

三〈証拠〉によれば、請求原因3の事実を認めることができる。

四〈証拠〉によれば、請求原因4の(一)の事実を認めることができる。

〈証拠〉を総合すれば、被告本多らは、本件専有部分の表側を壊して煉瓦で壁を構築し、鉄製の扉を付け、裏側の窓を鉄製の壁に改装し、また、玄関側の共用部分にテレビカメラを設置し、通路及び来訪者を監視していることが認められる。右事実からすると、本件建物居住者らに対し、常に監視されているような不快感を与え、異様な状態にあることは容易に推認できる。

〈証拠〉によれば、請求原因4の(四)ないし(六)の事実も認められ、更に右証言によれば、本件専有部分に出入りする暴力団員らが深夜に騒いだりするため、本件建物居住者らが迷惑を被つていること、本件専有部分が暴力団事務所となつて以来、その隣でパーマ店を営む森通悦らは、客が減り苦慮しているほか、本件建物の賃借入居者のうち、数所帯の者が右暴力団事務所があることによる恐怖感から本件建物を退去したことが認められる。

五〈証拠〉によれば、原告管理組合規約の定めでは本件専有部分は専ら住宅として使用しなければならず、他の用途に供してはならないことになつているのに、前記認定のとおり被告諫山及び被告本多らは、それに反して暴力団事務所として使用し、そのため被告本多らは、原告管理組合から右のような違反行為の改善を求められながらそれを無視していることが認められる。

六以上認定の事実によれば、被告諫山及び被告本多らは、本件専有部分の管理又は使用に関し、本件建物の区分所有者の共同の利益に反する行為をしたもので、区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して本件区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるものというべきである。

七〈証拠〉によれば、原告管理組合は、法六〇条に基づき被告諫山及び被告本多の両名に対して本件専有部分の引渡しを求めることなどを議題とする総会を昭和六一年七月二日午後六時に福岡市中央区所在の郵便貯金会館において開催する旨通知するとともに弁明の機会を与えたところ、同日、被告本多から書面をもつて法六〇条に基づく本件専有部分の引渡しの決議は猶予願いたい旨の意見が寄せられたが、右総会において区分所有者及び議決権の四分の三以上の多数で、本訴を提起することを決議したことが認められる。

八以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求は理由があるので認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用し、なお、仮執行宣言の申立については、相当でないからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官照屋常信)

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